恋人が気に入った万年筆のツルンとした柄は北斎の波の色に似ている。
灰色のコートの二番目のボタンはほつれた時にちょうどいい色がなかったから引き出しにあった糸で留めた。そのちぐはぐな糸は、実家の近くの酒屋の主人がつけていたエプロンの色と同じだ。
そのセーターが気に入っている理由は、蝋燭を点けたとき下の方で揺れる炎の輪郭と同じ色だから。何重にも織り込まれた絹糸のようなヴァイオリンの旋律が響く夜に似合うから。
シリウスがもうすぐ一番美しく見える夜がくる。太陽よりも熱い星の色。
窓を開ける。南国のリゾート地で食べる薄いアイスブルーのかき氷のグラデーションに似た透明に近い空。ピキンっとこめかみの上が引っ張られて、耳の上の方までキュッと冷たくなるような朝。記憶の中の限りなく透明に近い祈りの音色がその日を揺らし始める。
わたしは恋人に青色の言葉を伝えた。
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