2015年6月18日木曜日

紫のニュアンス

小学校の教室で紫式部の名前を初めて聞いた時、その語感が持つ色っぽい響きと、その漢字の並びが持つ静かな威厳のようなもの、挿絵に描かれた十二単の鮮やかな薄紫がわたしをうっとりさせた。あれからわたしは紫色の放つニュアンスにどうもこうも惹かれる傾向にある。

鮮やかな赤と濃い青を混ぜる。それだけじゃ足りないから、そこにミルクを数滴。赤と青の間を行ったり来たり、消え入るミルクの筋を漂う。

1re
夏の到来を思わせる鋭い日差しに目を細める午後。Parisの街、ひとつ路地を入り、奥まった場所にある店。外の喧騒から離れてひんやりとした洞窟の入り口のようなその店先に誘い込まれるように、足を踏み入れる。アンバーの強くて甘い匂いが立ちこめ、お香の煙が体を包む。その店の壁の色。

2e
彼女の部屋のソファに腰を下ろす。彼女は猫のように目を細めて笑う。長い黒髪が揺れる。お茶を入れる後ろ姿。スパイスが湯気とともにほのかに香る。カタカタと食器を揺らしながらお盆を持ってくる。くるりと向きを変え台所に戻る彼女の長いスカートからのぞく引き締まったアキレス腱。色とりどりのビーズが施された彼女の部屋履きの色。

3e
ベッドの端で膝を抱えてぎゅっと座る。西日がゆるくカーテンの隙間からシーツに淡い陰を作る。広げた本のページの上にぼたりと雫が落ちる。涙で霞み、活字が滲む。家の外から靴音と鍵音が近づき、ガチャリと扉が開く。薔薇、芍薬、カーネーション、花たちから漂うほのかな香りが部屋に立ち込める。手ぶらで帰るよりも、君と早く仲直りができると思ったから。恋人の手から溢れる花のグラデーション。


...dernier
直接空で染料を混ぜたような魔法のような夕闇の色。
あるいは、光に透けたハートカズラ。
太陽の甘い光に溶けてしまわないように、わたしは思わずそれを縫いとめたくなるのだ。






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