2016年1月21日木曜日

ヴェネツィアの光①ー始まり

新婚旅行はヴェネツィアに。
これは夫が以前からわたしに提案していたことだった。それなら次のまとまった休暇、クリスマスのバカンスにヴェネツィアに行こう。
わたしがそれまでにヴェネツィアについて知っていたことといえば、「水の都ヴェネツィア」このキャッチフレーズと、何年か毎に必ず誰かが言う「早く行かないともう何年か後には水の下に沈んでしまうよ」というフレーズくらいだった。

空港からリムジンバスに乗り、ヴェネツィア市内に着いたのは20時過ぎ。バスから外に出る。南仏からの気温の差を感じ、慌ててマフラーをぐるぐる首に巻き付ける。もう辺りは真っ暗で深夜のような雰囲気が漂っている。リムジンバスの停留所からホテルまで定期船に乗る。これはヴァポレットと呼ばれる水上バスのこと。ヴェネツィア市内に足を一歩踏み入れると、そこには車もバスもない。歩く以外の交通手段は、そう、船だけ。


時間になり、船がゆっくりと動き出す。外を覗いてみようとするが、あたりは真っ暗な上、船の窓が汚れで曇っていて外の景色はあまり見えない。外の街灯が反射する水面の光がうねうねと真っ暗な水を波うたせている。始発駅から乗り込んだ乗客はわたしたち以外には2人だけだったが、数駅超えたあたりから徐々に増えだし、みるみるうちに船は満員になった。この時間はいかにもな観光客はわたしたち以外見当たらず、住民なのか勤め先帰りのような雰囲気の人が多く、船はイタリア語が飛び交っていた。そうだ、ここの挨拶は”Bonjour(ボンジュール)”じゃないんだと気づき、”Buongiorno”(ボンジョルノ)”ともごもごとひとり口の中で繰り返してみる。


目当ての停留所のひとつ前で、屋内から外の甲板に出る。目に映る景色に思わず息を飲む。定期船のエンジンの音。黒くゆっくりとうねる水面。水の上、街灯の光で厳かに浮かび上がる建物、そしてその連続。突然目の前に浮かび上がった幻想的な景色に打ちのめされたような気持ちになり、心臓がどこか遠くに羽ばたいて いったかのように、息を飲んでそれきり、言葉が出ない。

船はゆっくりと駅に着く。エンジンが止まる。
ようこそ、水の都、ヴェネツィアへ。


停留所を出て予約したホテルを探す。ヴェネツィアの街は住民でも迷うことがあると何かの本で読んだことがあったが、まさかここまでとは。運河沿いの大きな道から一歩路地に入ると、短い路地が次から次へと続く。人ひとりしか通れない路地、肩幅ほどしかなく建物と建物の隙間かと見間違うほどの狭い路地を横目に、迷ってはいけないとできるだけ大きな路地を選びながら進む。手元の地図は大まかな通りだけが記してあるだけだ。頭上を見上げ壁に記されている道の名前を探してみるが見つからない。この街では地図だけを頼りにはしていられないのだと知る。


ホテルも見つかり、予約していたレストランもなんとか見つけ、地元の人と観光客で賑わうその店で食事も済ませ、店を出たのは23時過ぎ。ホテルへの帰路、 ちょっと寄り道してみようかと路地から路地を歩き回る。深夜の散歩。もう街には誰もいない。音もなく静まりかえった街。小さな橋を何本も渡り、道に迷う。教会の12時の鐘が鳴り響く。一体、ここはどこ。心細さに途方に暮れる。どこに迷い込んでしまったのだろう。迷い人を幻惑するようにぽつんと残された店の明かりで闇に浮かびあがるショーウィンドウのヴェネツィアンマスクが笑う。



次回に続く。


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